kaeguriの日記

2歳になる娘と猫1匹との暮らしです。プロフィール画像は奥さんがお風呂に描いた娘の似顔絵。

「ゲド戦記」の世界

「ゲド戦記」の世界は、翻訳者の清水真砂子さんが、ゲド戦記について2006年に新宿の紀伊国屋書店で行った講演をまとめたブックレットです。私は当時、奥さんと一緒に講演を聴きに行きました。

「ゲド戦記」の世界 (岩波ブックレット)

「ゲド戦記」の世界 (岩波ブックレット)

 

ご自身が高校教師だったときにされた体験、ものを読むということはそこに何が書かれていないのか、ということまで含めて読むことだった、というお話から始まり、最後まで夢中でお話を聴きました。

 

翻訳者として、一言一句「正確に」置き換えていくことが、どのくらい力を必要とする作業であるか、また、自身が生み出した言葉に対する責任感、言葉の重みを感じました。

 

ゲド戦記を読み進めていくと、自分がその世界で呼吸をしているような感覚を覚えます。その空気は、原作者であるル・グウィンの物語そのものに加えて、清水さんが磨き抜いた一つ一つの言葉が生み出すものでした。私はゲド戦記の世界の空気感が大好きです。

 

講演を聴く中で、途中から涙がこぼれるのを抑えるのが大変でした。決して、講演の内容があからさまに悲しいとか、感動的だとか、というわけではないのです。暖かくて気高い語り口がはこんでくる、会場に満ちた波に洗われたような、今振り返ってみても理由は説明できないし、他に同じような経験もありません。

 

ただ、美しく年を重ねるというのは、本当に素敵なことだと思ったのです。